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最高裁判所第三小法廷 昭和60年(オ)223号 判決 1986年2月18日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由一及び二について

所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、上告人が、その所持する本件株券について、被上告人に対し所論の記載事項の訂正をした真正な株券の交付を請求する権利を有しないとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同三について

原判決は、上告人の被つた損害の立証がないことを理由に、所論の作為義務不履行による損害賠償請求は理由がないと判示しているのであつて、原審の右認定判断は、その説示に照らし正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同四について

記録によれば、被上告人の訴訟代理人である奥村孝弁護士は、昭和五八年五月三〇日被上告人の監査役に就任したことが認められる。しかし、監査役が会社又は子会社の取締役又は支配人その他の使用人を兼ねることを得ないとする商法二七六条の規定は、弁護士の資格を有する監査役が特定の訴訟事件につき会社から委任を受けてその訴訟代理人となることまでを禁止するものではないと解するのが相当である。また、監査役は株主総会において選任され、監査役と会社との関係が委任に関する規定に従うものであり(商法二八〇条一項、二五四条一項、三項)、かつ、監査役は会社、取締役間の訴訟について会社を代表することとされており(同法二七五条ノ四)、監査役が会社ひいては全株主の利益のためにその職務権限を行使すべきものであることは所論のとおりであるけれども、そのことから直ちに、一株主が会社に対して提起した特定の訴訟につき弁護士の資格を有する監査役が会社から委任を受けてその訴訟代理人となることが双方代理にあたるものとはいえない。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つて原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡満彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 長島 敦)

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